SAYONARA
 それを伝えると、彼は嬉しそうに笑う。

 あたしは気恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになっていた。

「やっと普通に笑ってくれた」

 その言葉に引き寄せられるように声の主を見た。

 まるで美枝に見せるような優しい笑顔を浮かべていた。

「ずっと怖い顔をして俺を睨んでいたから気になってたんだよね」

「怖い顔なんて」

「この前なんか今の比ではなかったよな」

「でも、あれは由紀子のほうが」

 あなたにきついことを言おうとしていたのではないかと思って口をつぐんだ。

 友達の名前を比較の対象にするのが間違っている。

「あの一緒にいた子か。あの子はあんたが怖い顔をしていたから、あわてていたよな。ああやって俺にきついことをいったのはあんたに余計なことを言わせないためだったんだろうな」
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