SAYONARA
「遅かったな」

 功はあたしを見て、苦笑いを浮かべる。

「ゆっくり歩きたかったから」

 もう言いなれた嘘を重ねる。

 功はふうんというと、自分の机の上に置いていた教科書に目を向ける。

彼はペンを手にしているが、真っ白なノートに何かを書き記した様子もない。

どこか落ち着かない様子で何度も教科書に目配せする。そんな彼を見て、少しだけ功を責めたくなった。

「もう少し彼女と一緒に居たら良かったのに。まだ先生が来るまで時間があるよ」

 その言葉に功の頬がほんのりと赤くなる。

「変なこと言うなよ」

「そうだね。ごめん」
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