SAYONARA
「最近、その武田功さんがジョギングをしているって聞いたからってたまにこうやって見に来ているんだってさ」

「功のことを?」

 好きな人のことを好きといえなくて遠くから見るというのは少女漫画にでもよくありがちなシチュエーションなのかもしれない。それが誰もが目を奪われるほどの美少女といえば聞こえはいい。

 だが、なんともいえない違和感がある。

 彼は苦笑いを浮べていた。

 たぶん、あたしと同じことを彼も考えていたのだろう。

「あれってどう見ても不審者に見えますよね」

 その言葉が彼の笑いのツボを刺激したのか分からないが、余計に笑い出してしまっていた。

「不審者か。確かにね。声をかけられないなら行かなきゃいいと思うんだけどさ。顔見知りなんだし」

 それどころか彼女なのだから、普通に話しかければいいと思う。

 だが、彼女は木の影に潜むようにして功を見ていた。

「あの人と何を話せばいいのか分からないって言っていたんだよ」

「美枝が?」

 彼はうなずく。
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