SAYONARA
 知らないでいることが好きな気持ちの逃げ場になると思っていた。

 だが、もうそうやって後ろ向きで生きるのはやめようと思ったのだ。

 理由をあげたらいくつかある。だが、何かは考えない。そんな言い訳も必要ないと分かったからだ。

「いいよ。恥ずかしいから」

「知りたい」

 押し問答の末、先に根をあげた功がしぶしぶ答えた。

「すごく不器用な子だからだと思う」

 今までのあたしならその言葉を信じられなかったかもしれない。だが、あの早朝の日の彼女の姿を思い描けば、違うとも言い切れなかった。

 彼女の幼馴染も似たような事を言っていた。

「だから、一番の理解者になりたいと思った。少しでも彼女のことを知りたいと思ったし、理解したいと思った」

「理解者になれそう?」
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