SAYONARA
 彼は頭をかくと、髪の毛を乱していた。

「聞かせてよ。聞きたい」

 彼ははにかみながらあたしにそのときの状況を大雑把に、そして時折細やかに伝えていく。

 そんな時間は十七年生きてきてほんの一時間にも満たない僅かな時間でしかない。

 一生にしたらもっと短い時間だ。

 だが、二人にとってはあまりに大きな出会いで、彼女の人生をほんの少し変えてしまった。

 もしあのとき、功が彼女を見つけなかったら。

 たらればでいくらでも可能性を探れる。

 だが、今目の前にあるものがあたしたちの現実だった。

 それを曲げることも、覆す必要もない。
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