王国ファンタジア【氷眼の民】―ドラゴン討伐編―
僅かに動くそれは、セシエルやユリエスにはとてもじゃないが生物には見えなかった。
「ユキフラシ。その名の通り雪を降らす魔物だ。だが……」
言葉を濁す。
頭の中の知識を整理し直し、二の句を続けた。
「ユキフラシは遥か北の極一部の地域にしか存在しない希少種だ。それに吹雪を起こすほどの魔力は持っていないはず」
「突然変異とかじゃねーの? それより勝機はあるのか、レイン」
「無論だ。ユキフラシの皮膚は厚いが、貫けぬほどじゃない。動きもノロイし、これといった攻撃魔法もないからすぐに終わる」
体力も完全に回復し、絶好調のレインにとっては取るに足らない相手。
ユキフラシにピントを合わせると、小さく言葉を紡いだ。
「霜柱」
ユキフラシの真下から、鋭い氷柱が無数に生える。
氷柱は簡単にユキフラシの身体を貫き、肌と同じ紫色の体液をその身に伝らせた。