王国ファンタジア【氷眼の民】―ドラゴン討伐編―
咳き込み方が尋常ではない。案の定、手のひらには微量ながら血液が付着していた。
吐血。レインの身体は当に限界を迎えている。
ドラゴンを討伐した余韻に浸っている暇などない。
すぐに治療をしなければ生死に関わる。
「マルタ、魔力は残ってる?」
「ほとんどチビドラゴンとの戦いで使いきっちゃった……」
「仕方ない。ユリの召喚獣で人里に戻りましょ。その間私が回復魔法をかけ続けるから、ベリルさんとセシエルさんは後から―――」
突如停止したエナの言葉。
空を見つめたまま目を見開く彼女に皆首を傾げるが、視線の先を追うとその謎が解明された。
朝日を背に宙に浮かぶ謎の人物。
片翼の黒き翼を背に託し、徐々に下降していく眼鏡をかけた端麗な顔つきの青年。
ブラウンの髪は陽の光によって輝き、口の両端は不気味に吊り上げている。