幕末Drug番外編−土方歳三−
紫煙の向こうに。




書斎に篭ると、つい煙草へと手が伸びる。

激動の時代…−誰が何時死ぬか分からぬ日々。
こうしている間にも、尊王攘夷派の連中はお偉い方の命を狙っているかもしれない。

…−どうすれば、奴等より先に一手を打てるか。

考えれば考える程、深みに嵌まりそうで自然と眉間に皺が寄る。


『ニャー…』


ふと、柔らかな感触が手に纏わり付く。


『…お前か。』

総司が拾ってきた子猫。

−…アイツはいつも、犬だの猫だの拾って来ては 俺の部屋に置き去りにする。

『ニャー…』

小さな鳴き声に、俺に縋る様な寂しげな眼差し。

『…腹、減ったのか?』

『ニャー…』

無論、書斎に猫の餌などある訳が無い…のだが。

猫を放置する時は決まって…

『…やっぱり。』

引き出しに煮干しの袋が入れられている。これも全て、アイツの仕業だ。

『ニャー』

煮干しの薫りに誘われて、顔を擦り寄せる子猫。

『分かったから…待て。』

煮干しを一つ取り出すと、子猫の口元に運ぶ。
シャクシャクと美味しそうに煮干しを食べる子猫を見ていると、心なしか気持ちが落ち着く。

『…上手いか?』

『ニャー…』

小さい体が、必死に食べ物を口にしている。


『…生きたいんだな、お前も。』


煮干しを食べ終わった子猫を抱き上げると、満足そうに小さく鳴いた。

『…良い子にしてたら、褒美をやる。』

子猫の顎下を撫でると、甘える様に喉を鳴らした。


また何時総司の気まぐれで、この子猫が誰かの元に行ってしまうか分からない。

せめて、其れ迄は此処で…誰も知らない時間を過ごすのも良いだろう。









…−−−今日も桜が、綺麗に散った。


















−fin.
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