Color
−あの日ドアを開けた瞬間、店内にいた数人の客が訝し気な顔をして私を見ていた。



その時の私には周りなどどうでもよく、その視線もただ気付いた、というだけだったが今思えば、40前後くらいの、ほとんどが常連客であろうその店に、喪服を着て金髪に近い髪をした若い女がひとりでやってきたのだ。

オジサン方には見馴れない光景だっただろう。



店内は黒を基調としたとても落ち着いた雰囲気で、カウンターの他にオジサン達のいるテーブル席がいくつかあった。



「いらっしゃいませ。」


声の主へぼんやりと視線を向ける。


「何にいたしましょう」

自分が場違いだと気付いたのはその時だった。



付き合い程度にしかお酒を飲まず、ましてバーなんて入った事もない私には、何を頼めばいいかすらわからなかった。


そしてそこで、私のたいして働いていない思考は止まってしまった。




どれほど沈黙していたのか、ふと気付くと目の前に小さめのカクテルグラスが置かれていた。



そしてバーテンが軽くシェイカーを振り、グラスに注いでいく。

正直味はあまり覚えていないが、淡い水色の、透き通ったとてもキレイなカクテルだった。



「今日ココに立ち寄っていただいたお礼です。」



(バーテンってホントにこんなキザっぽいんだ)




−それがこの店のマスター、春日蓮児だった。
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