泪の花。
「今の話の流れからどうやったらそんな事思えるんだ?」

と質問してきたバカを無視して咲坂君に、


『私がお見舞いに来た日覚えてますか?』

と問いかけた

「大雨で、朔來の好きな桃を持ってきてくれましたよね?」


『あれ、私が買って来たわけじゃないんです。朔來のおじいちゃん雨降ってるのに片手に桃の入った袋下げたまま入口で固まっちゃってて、入らないんですか?って声をかけたら桃を渡してくれって…そのまま帰ってしまわれて…』


「そんな…事が?」


『朔來のおじいちゃん、ホントは、朔來とご飯食べるのも、話したりするのも嬉しかったんだと思います。』



「じゃ、なんでそんな傷付く事言うんだよ」



と、アイツが言う



『そういう人間だっているのよ…優しくするのが恐ろしい程苦手な人だって沢山いる。でも、優しさって言葉だけじゃないと思う。』



だって…お見舞いにきたおじいちゃん、雨が降る前から立ち尽くしていたって看護婦さんが言っていたもの。



ずっと…ずっと謝りたかったんだと、後悔を隠しきれていなかったおじいちゃんの表情は忘れっぽい私の記憶にも鮮明に残っている。


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