深想シンドローム


あたしはビクリ、と肩を震わせて硬直。

野崎って人の迫力に、頭がパンク寸前だ。



「西、この女知ってんのか?」

キレイな顔を歪めながら、ドスの利いた声で西くんに問い掛ける。


「知ってるていうか、見たことあるだけっすけど…。」

確かE組だよね?と聞かれ、あたしは二度首を縦に振って答えた。


そして西くんはちらっとあたしと野崎さんを一瞥し、ふいに尋ねてくる。



「もしかして…この人に触った?」

「え?」


するとその人は西くんの首元から手を離し、すぐ近くにあった木を突然蹴った。

その反動で木が揺れ、木の葉が舞い落ちる。


ひいい~っ!!!!


あまりの恐怖にビクビクしてると、西くんがニッコリ笑ってあたしに言った。


「ごめんね、気にしないで。エース寝起きすんげー悪いんだ。」

「あ、ははぁ…、」


目の前の出来事に、乾いた笑いしか出て来ない。


ていうか!
さっきから、触った触らないとか…一体なんなの?


意味がわからないんですけど!



頭の中が混乱していて、あたしは大事な部分を聞き逃していた。


――そう。
“エース”という言葉を。



とにかく今すぐにでもここから逃げたくて

「じゃ、じゃああたしはこれで!」

と踵を返す。



でも、甘かった。





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