深想シンドローム
・噂の彼と遭遇しちゃった!
「ミチルくんって、彼女とかいないのかな。」
とある日のお昼休み。
卵焼きを頬張りながら、ふと明日香ちゃんがぼやいた。
とにかく有名で、大人気なミチルくん。
なのに、ひとつだけ彼にはない噂がある。
「そう言えば、ヒナも聞いたことないかもー。」
「けどミチルくんなら彼女くらい居るんじゃない?」
そう、“恋の噂”だ。
あんなに色んな噂が飛び交う中、浮ついた話は聞いたことがない。
「もしかしたら、特定の彼女は作らない主義、とか?」
憶測で話す明日香ちゃんに、ヒナちゃんはいつもの調子で騒ぐ。
「ええー!じゃあ、ヒナも一回くらい遊んでくれないかなーっ!」
「一回くらいならヤッてくれるんじゃない?」
「そうかな!?」
「けど、もしかしたらアッチ系かも。」
「アッチ系って、ホモってこと?」
「ちょっと、ヒナ、明日香!」
ちづちゃんの声に、みんなの視線があたしに集まる。
あたしはお弁当を持ったままフリーズ状態。
聞き慣れない言葉が、あたしの思考を凍結させた。
ホ、ホモって…。
「ご、ごめん、みぃこ!みぃこにはまだ早かったよね!」
「う、ううんっ!」
すぐに明日香ちゃんが謝ってくれるけれど
居てもたっても居られなくて、慌ててお弁当箱を片づけたあたしは立ち上がって言った。
「花壇にお水、あげてくる!」