王国ファンタジア【氷炎の民】ドラゴン討伐編
「それは……」
グレードは言いよどむ。ほんとうにほんの一瞬だったし、直後には健やかに眠っていると言う状態にしか見えなかったが、あの一瞬、まるで死んでいるように見えた。最初に触れたときの冷たい感触はまだ手に残っている。
しかしそれをこの青年に言うのはためらわれた。なかなかに本心を見せない人のようだが、従者という以上にレジィを大切に扱っていることくらいは、いくら年若いグレードでも見て取れた。見立て違いかもしれないのに、この時期に余計な心配をさせるのもどうかという気がしたのだ。
だが、そんなグレードの態度は逆にサレンスを心配させたようだった。
「あの子の父親は心臓の病を患って急逝した。それは生まれつきのものだったらしいが、もしかしてあの子にも?」
「心臓? いえ、少なくとも今見た限りではレジィ君は健康体です」
まだ青年と言うには年若いグレードであったが、冷静な医師の顔となって告げる。
「ですが、アイボリーアイにも限界はあります。あきらかな病変は見抜けても僅かな兆しまでは見えない。人間の体は複雑で絶妙な均衡の上に成り立っているんです。いったん均衡が崩れたら雪だるま式に急変することもあり得ます」
少し専門的な説明になり過ぎたかと思ったが、サレンスはグレードの真意をある程度は汲み取ったようだった。
「側にいるものが、よく観察していたほうがいいということか」
「杞憂であればいいんですが」
「そうか」
軽くうなづくと、サレンスは続けた。
「ところで君は支援隊の方だったな?」
「はい、後方支援隊です。とりあえず、王都を基点に各分遣隊の治療、補給に当たれ、と言うことですが」
「なるほど。それならば頼みがあるんだが」
「頼み?」
次に告げられた言葉にグレードは眼を瞠った。
グレードは言いよどむ。ほんとうにほんの一瞬だったし、直後には健やかに眠っていると言う状態にしか見えなかったが、あの一瞬、まるで死んでいるように見えた。最初に触れたときの冷たい感触はまだ手に残っている。
しかしそれをこの青年に言うのはためらわれた。なかなかに本心を見せない人のようだが、従者という以上にレジィを大切に扱っていることくらいは、いくら年若いグレードでも見て取れた。見立て違いかもしれないのに、この時期に余計な心配をさせるのもどうかという気がしたのだ。
だが、そんなグレードの態度は逆にサレンスを心配させたようだった。
「あの子の父親は心臓の病を患って急逝した。それは生まれつきのものだったらしいが、もしかしてあの子にも?」
「心臓? いえ、少なくとも今見た限りではレジィ君は健康体です」
まだ青年と言うには年若いグレードであったが、冷静な医師の顔となって告げる。
「ですが、アイボリーアイにも限界はあります。あきらかな病変は見抜けても僅かな兆しまでは見えない。人間の体は複雑で絶妙な均衡の上に成り立っているんです。いったん均衡が崩れたら雪だるま式に急変することもあり得ます」
少し専門的な説明になり過ぎたかと思ったが、サレンスはグレードの真意をある程度は汲み取ったようだった。
「側にいるものが、よく観察していたほうがいいということか」
「杞憂であればいいんですが」
「そうか」
軽くうなづくと、サレンスは続けた。
「ところで君は支援隊の方だったな?」
「はい、後方支援隊です。とりあえず、王都を基点に各分遣隊の治療、補給に当たれ、と言うことですが」
「なるほど。それならば頼みがあるんだが」
「頼み?」
次に告げられた言葉にグレードは眼を瞠った。