境界上
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営業部のデスクに書類を叩き付けたのとその声は、まさに同時だった。
耳慣れない、人当たり良さげな柔らかい低音。
その声質の方向にゆっくり視線をやると――そこにはやや見覚えのある男が一人。
……ああ。この男は営業部で一つ下の後輩だ。
確か名前は
「宮坂くん、だっけ?」
「あれ、違う部なのに覚えてくれてたんですか?
嬉しいなぁ」
そりゃあ。
この会社でも精鋭の“粒メン”が揃う部署だもの。営業部は。
(なぁんて本音、本人に向かって言えやしないけれど。)
「それを言えば宮坂くんこそアタシの名前、知ってくれてるじゃない。あなたも残業?」
「いえ」
宮坂くんは首を軽く横に振る。
そして、少し挑発の混じる微笑を浮かべて口を開いた。
「実は矢沢さんが“ここ”に来るの知ってて待ってました、
……って言ったら信じてくれます?」
営業部のデスクに書類を叩き付けたのとその声は、まさに同時だった。
耳慣れない、人当たり良さげな柔らかい低音。
その声質の方向にゆっくり視線をやると――そこにはやや見覚えのある男が一人。
……ああ。この男は営業部で一つ下の後輩だ。
確か名前は
「宮坂くん、だっけ?」
「あれ、違う部なのに覚えてくれてたんですか?
嬉しいなぁ」
そりゃあ。
この会社でも精鋭の“粒メン”が揃う部署だもの。営業部は。
(なぁんて本音、本人に向かって言えやしないけれど。)
「それを言えば宮坂くんこそアタシの名前、知ってくれてるじゃない。あなたも残業?」
「いえ」
宮坂くんは首を軽く横に振る。
そして、少し挑発の混じる微笑を浮かべて口を開いた。
「実は矢沢さんが“ここ”に来るの知ってて待ってました、
……って言ったら信じてくれます?」