境界上
.


すると彼は。

ゆっくりアタシの脚を一瞥した後、ふっと目を細めて視線をまた元に戻した。

それは挑発と値踏みが混濁したような、

……そんな妖しい色の目つき。


「……油断してると、見とれてうっかり噛みつきそうだ」


「あら嫌だ、本性はサディストなのね」


それとも、誉め言葉と受け止めてまずは喜ぶべきかしら?

いいように弄ばれる髪を眺めながらそう付け加え、彼の挑発をあえて受け流す。

例え挑発を愉しんでいたとしても。

あっさり挑発に“ハマってやる気”はサラサラない。

わざわざ自分から“噛みつかれてやる”程お安くもない。


――かといって。

別にお高くとまってるワケでも勿体ぶってるワケでもない。


ただ。

彼同様、アタシも“値踏み”させて頂いているだけだ。




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