君と竜が望んだ世界
 “隊長”と仰がれた男は、伝令に駆ける部下を見守りながら腰元の柄を握る。
 力を込めるとのびるように現れた光。
 顕わになる剣身にちらりと視線を落とし、暴れる獣と戦う隊員たちへ自身も立ち上がる。

 そして自身もまた奮闘する者達と背中を合わせるために、走り出した。

 明るい長い髪を後ろに結い、おしゃれの欠片もない戦闘服を纏う少女を見つける。
 その隣りでは黒髪揺らしながら、同じく戦闘服に身を包んだ少女が奮闘している。

 大きな軍人の背に囲まれながら、だが彼らを援護すべく防御や足止めの術式を放っている。

「メレディス! クレアも大丈夫か?」


 剣を握りながら目当ての人にたどり着く。
 見習い術士として防御壁を造り、それを支え続ける従妹(いとこ)を。

「カナトール兄様!? 私もクレアもなんとか大丈夫。それより何、この数は!」

 大男や軍人だらけの中隊に咲いていた二輪の花は、壮絶な状況に可憐さを捨てていた。

 大丈夫。
 今は大丈夫、その声にのって伝わる恐怖と必死さに、隊長――カナトールは悔しそうに顔を歪めた。

 地を埋め尽くすような人と、人より数倍大きな獣が命の取り合いをしている。


 こちらに分が悪いのは一目瞭然だ。連れてこなければ良かった……。剣を振りながらもカナトールの脳裏に後悔の念が押し寄せる。


 硬い皮膚をもつ巨体の鋼狼とはいえ、隊員二百人の部隊で二十頭を討伐する。そのはずだった。

 二十頭なら……!
 決してカナトールの傲(おご)りではない。それなりに余裕を持って遂行できるとの双方の判断のもと下された任務だった。

 二人の少女をギルド加盟員の見習いとして。


 予想を圧倒的に上回る数、だがこんな所で諦めたくはない。援軍が来るまでもう少し!

 カナトールだけでなく、その場全てがそう切に願っていた。


 硬い牙を受け止め、首元に、頭に、剣を付きたてながら、この殲滅戦の『害獣対策部隊』隊長で、この場にそぐわぬ少女メレディスの従兄である彼、カナトール・クレスウェルの頭を、先日渡された任務依頼の辞令書の内容が映った。
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