君と竜が望んだ世界
──最近頻繁に姿を見かけるようになった魔獣、鋼狼(こうろう)、または硬狼(こうろう)とも呼ばれる。北東、アドラル山脈の東より、町や村を襲いながら降下移動。現在その進路は首都ローゼンフェルド市に向かっているとの報告あり。
異例ながら少数の群れを形成する、そして未だ猛威を奮い続けるそれらを『害獣』と認定。
ついては、バイルシュタイン国軍、軍事部特殊任務課(通称:軍部特務課)所属 カナトール・クレスウェル少尉、及び以下の二百余名。
同少尉を隊長に中隊『鋼狼対策部隊』を編成。報告にあった二十頭の殲滅を命じる──以上。
首都を街を脅かす存在をこれ以上近づかせやしない、そう意気込んでの出撃だった。少なくとも全員。最初は。
だが、いざその敵と対峙すると、部隊としては全く歯が立たず、数少ない高位術士がなんとか数頭を倒せている、という不甲斐ない状況だった。
この数相手に個人じゃ大して効果はない。だが隊として、隊長として何もできない非力さを感じたのか、腹が立ったのか、カナトール必死さ滲み出る鬼のような形相で剣を振るっていた。
部下と従妹たちと、協力すると隊に加わってくれた民商連からの助っ人をみすみす死なせるわけにはいかない。
ただ、中央司令軍に遣わせたカナトールの契約獣が、呼んでくれているであろう援軍がを、彼らが一刻も早く助けに来てくれる願う事しかできないでいた。
他所で火の粉が吹き荒れ、平らな台地は崩れ、気が付くと四方を囲まれていた。
逃げ道なんて皆無。顔に滲み出ている疲労の色。防戦もそろそろ限界……。
誰もが口には出さないものの、そう考えていた。
その時────
──空が、前が、後ろが、周り全てが突然、紅一色に染まった。
同時に耳をつんざくような無数の咆哮。地鳴りを覚えるそれは紅の向こう側から狂うように聞こえた。
遅れることわずか数瞬、むせ返るような、強く激しい熱風が辺りを包んだ。
──これは……炎!
そう気づいた時には既に炎は消え、眼前には黒い大きな塊が広がっていた。