君と竜が望んだ世界
 ここにいる中隊全員の場所を囲む程の規模、驚くほど大きな半球形の透明なガラスのようなものを。

 先刻まで熱がたち込めていた一帯が、一瞬で氷属性の結界、防御壁の術式、氷透壁(ひょうとうへき)によって包まれたことを。

 二百余人もの人が散在する、この広域を包み込むだけの大きな結界を。

 巨大な氷の球体の中に入れられ、幻想的な光景に驚きと放心する者もいた。

 それは国内の実力者でも容易く張れるようなものではない。
 中にはいきり立つ者もいた。
多数の魔獣相手に一人で戦う男の姿を、ただ指をくわえて見ているだけなんて冗談じゃない、そう言って氷透壁から出ようとした束もいた。


 溶ける様子のない氷透壁をこぞって攻撃したり、反対属性の術で解除しようと試みる者もいた。


 だが二百人あまりいるクレスウェル中隊の中で上位に入る術士や猛者たちでも解除はおろか、びくともしないのを見て、大人しくなった。

 同じ氷透壁の中にいる隊長カナトール・クレスウェルはそんな様子の面々を遠目に見たあと、外に目を向けた。


 おそらく援軍として、助けに来てくれたであろう黒いコートを着た人物に目をやる。


 空から下りたったとおぼしき最初の場所からあまり移動していない割に、鋼狼の数は確実に減っているのを見て、呆気に取られた。

 その傍らにはいくつもの死体が折り重なるように横たわっている。
 今も増え続けるそれを、邪魔だと足場にしながら、さらに上へ上へと跳ねながら、飛び来る獣をぶった切っていく。

 死体の山と交互に目やる。術を駆使して造形した見事な氷の鋭利な刃物のような鋭いつらら、風を基とした視認不可の刃物のような攻撃。

 氷柱を縦横無尽に操る。

 それらは地面すれすれの高さから低空という広い空間を、勢いをつけながら舞い、飛びまわり、複数で固まって正確に鋼狼の急所である頭部を破壊し、あたりを血に染めていった。

 硬すぎて手も足も出なかった魔獣を次々と。
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