君と竜が望んだ世界
「援軍の本隊待ってたら俺たち今頃全滅してましたよっ」

「命を救ってくれてありがとうございます」

「この恩は忘れねぇっ!」


 説明を聞き終えた彼らは緊張が取れたのか口々に礼の言葉を叫んでいた。


「どういたしまして」


 カナトールは男の口角がわずかにあがるのを見た。仮面でその表情は読みとりにくいが、うっすらと笑みを浮かべたのはわかった。

「さて、ここで新たな命令だ」

 男が放った『命令』と言う言葉に、軍人としての周囲の空気が変わる。

「中級魔獣二十頭というレベルCの任務だったが、実際は目算でおよそ十倍。約二百頭はいた」


 さっきまで戦っていたその大きな数に、カナトール以外も思わず肩を落とす。

「でも半数はもう倒しちまったんだからあと百頭ってとこだよな」という誰かの声も、どこかから聞こえてきた。


「その数からこの任務レベルはBに引き上げられた。」


 誤情報の事など忘れたかのように、「当然だ」というやや怒りと呆れを帯びた声が四方八方から飛び交った。


「しかも皆も気づいているように、本来あの種は特別で、狼であるが群れない、単独行動をとる。連れ添っても二、三頭でしか行動しない。
 それが二百頭という大群を構えている。あまりに異常すぎる。」


「そう言えば、そもそも鋼狼が集団で同じ目的のために、行動を共にするなんて聞いたことも資料でみたこともないわ」

「メレディス!」


 男の斜め後ろから少女が顎に手を付きながら、眉を寄せて呟いた。

 思わず声に出してしまったのか、意図的にかはわからないが、メレディスと呼んだ少女をカナトールが目で口を閉ざさせた。

「利口な娘、だな」

 そんな少女を振り返って一瞥し、感心したように一言褒めると、男はすぐに話を戻した。


「その娘の言う通りだ。だがそれにしては統率がとれすぎている。おそらくその理由はこの『群れ』を率いるであろうリーダーにある」


 魔獣の群れている方角を指しながら言った。半数に減ったためか、最初に比べて探しやすい。


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