君と竜が望んだ世界
 目を凝らして探ると、大多数の鋼狼に比べて、ふた周りほど大きな体躯を持つ鋼狼がいた。
 懐かれているのか崇拝されているのか、まるで親元に集まる多数の子供たち……そんな光景だ。


「あのひときわ体が大きいやつがこの異常な『群れ』を作り上げ、率いているリーダーと思われる」


 群れの中に明らかに異質なそれを見つけて、納得の色が広がった。


「話はまだだ。さっき、任務レベルBに引き上げられたと言ったが……、実はアイツのおかげで最終的にはさらに上、レベルAに決定した。」


「まぁレベルSが妥当だとは思うんだが……。私が行くと言ったら断固としてAだと……。ちっ、あのじーさん、報酬値切りやがって」


 だんだん小さくなる声で男は舌を打ちながらブツブツ言っていた。


 間近のカナトールだけはそれを聞き取り、男の強さとその内面のおもしろさとの差に少し驚きはしたものの、笑いながら興味を示していた。


「まあアイツ一体は……、一応上級魔獣に区分されるからな」


 群れの一点を見据えながらさらっと言うと、それを聞いていた隊員たちの顔が厳しくなった。


「長々と話してしまった、悪い。新たな命令だ。
任務レベルがCからAへと移行したため、私が到着した時点をもってこの任務の全権は私に委任された。
 また民商連の術士および見習い術士それぞれ二名を含めるクレスウェル中隊は、全員、例外なく、私に従うこと。
 質問、異議のある者は今、この場で、遠慮せず前に出ろ。
……無いようだな。以上だ」


 言い終わったかと全員が思ったとき、だが後ろに目でもついているのか、急に振り返った。

「クレスウェル少尉以外で何か言いたいことがある者、今言え。前に出ろ」


静まり返る周囲に向かって再び口を開く。「遠慮などいらん、さっさと言え」


 そわそわしているのを感じていた男は、無理やりにでも言わせようと“命令”した。


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