君と竜が望んだ世界
「――レベルSSS(トリプルS)の任務でさえも一人でこなし……」
ふくれっ面のクレアの横で腕を組みながら無表情で口を開いた、メレディス。
「……その戦闘能力は、ランク区分『グリーン』や私たち『ミドル』、カナトールお兄様たち『ナイト』なんか蟻んこミジンコ。他のマスターレベルさえも凌駕するといわれる。
近年この国で並ぶ物はいないと称される民商連ギルドの隠し玉。
彼の素性については一切不明。ただ一つわかっていること、それは――」
ゆっくりと別方向を見ながら淡々と語っていたメレディスがフォルセティ1を向き、仮面の双眸(そうぼう)に、その奥の瞳に、じっと目を合わせる。
「それはあなたが、四、五年前、どういうわけか、急にその存在を現したこと。そうよね、 マスターランクのフォルセティ1さん?」
メレディスの得意げな表情を見て、彼は答えるかわりに口元に笑みを浮かべた。
「そうなの?」と二人の間で顔を左右に振るクレアの頭に右手を乗せ、メレディスの頭に左手を乗せた。
「そんなに強いならもっと前から活躍してくれてもよかったのに~。ついでにもっと人前に出てくれてもいいのに~」
瞳を輝かせながら駄々をこねるように見上げるクレア。
「従兄の兄さんにあまり心配かけるなよ」
そう言って二人の手に小さな包み紙を渡し、背を向けて歩き出した。「強くなれよ」、そう言い残して。
「美味しそうなキャンディじゃなーい?」
去りゆくフォルセティ1の背から目が離れなかったメレディスの耳に、クレアの大きな声が入ってきてようやく、視野が動いた。
「どこかの新商品かなぁ、見たことないなぁ。ま、いいや。いただきまーす」
お菓子好きで新らしいもの好きのクレアがまだ知らないというキャンディ。そんな彼女につられてメレディスも舌に転がす。
「おいしい……」
すっぱさすぎない、柑橘系のほんのり甘くて、気分が落ち着くような不思議なキャンディだった。
「見つけたら絶対買わなきゃ!」
クレアが嬉しそうに食べているのをみながら、メレディスも密か喜んでいた。