君と竜が望んだ世界
何も考えられない、考えない。

何も思い浮かばない、思わない。

何も目に入らない、映らない。


 俺はただ暗闇の中、ぼんやりと漂い時を過ごしていた。数分か、数時間か、数日か、そんな感覚さえ分からない。いや、考えもしない。


 そんな闇に漂うだけの俺の、真っ黒な視界の先に、一点に、何かが見えた。


──あれは……。

 時折揺らめく、浅く、淡い、緑色……。まるで薄緑の翡翠(ひすい)のよう。そしてその下の方には一点のシミもない、真っ白な布。

 陽の入り込まないこの広い闇の空間に。


――あれはなんだ……?


 思わず声に出してしまったその途端、翡翠色がゆっくり動いた。いや、振り返った。


 人、あれは、女、だ。


 後姿だけで、なんとなく思った。考えるまでもない。


――あんた、だ…れ…?――


 虚ろな声で闇の先の翡翠に向かって声をかける。



――おれ…は、ハ…ヴィ……、
ル…………、フォ………ルド――


 何故か自分の名を答えた。先に。まるで俺の口が意思を持って動いているように。
 説明し難いこの情況の事など何も考えていない俺に変わるように。自分の、俺の名を出した。


 そんな虚ろな声が聞こえたのか、翡翠のような薄い緑色の髪を持つその女がゆっくりこちらを振り向く。


 首が回ると同時に腰よりも長い彼女の髪がふわりと大きく、軽やかになびいた。

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