君と竜が望んだ世界
「そうか、それはよかった。ならそれで話は終わりだ」


「わかりました。“色々と”どうもありがとうございました。これからもよろしくお願いします。では、失礼します」

 強制的にだが納得してもらったハーヴェイが立ち上がるのを見て、学長も立ち上がる。

「ああ、学園生活存分に楽しんでくれ」


 “色々と”と強調されてなんだか申し訳ない気がまだ残っていたが、最後くらいは学園長らしく見送った。


――“今更術力に関して学ぶことなんてない”、か。――



 一人残った学園長室でハーヴェイの言った言葉が頭の中を反芻(はんすう)していた。


   ――◇――

 翌朝。

「では、新入生を受け持つクラスの先生方、生徒たちが慣れるまでもう少しの間、気を引き締めて面倒を見てあげてください」

 一人の教師が最後の言葉を言い終えると、教師たちは散り散りに自分の机や各々の教室に向かって行った。

「アシュレイ先生、ちょっといいですか」

 ロイ・アシュレイ――彼が軍を辞め、ネストリ学園の教師になって六、七年になる。

 年のころは三十を少し過ぎた位だが、軍学校出身の術式や武器を使った戦闘をはじめ、素手での格闘のエキスパートとして、学園教師でトップを争うほどの実力術士だ。さらに教師や生徒だけでなく、一部の保護者からも慕われている――

 彼もまた教室に向かおうとしていた一人だったが、誰かに呼ばれて足を止めた。

「これ、今朝学長からロイ先生に渡すように頼まれました。
遅れて入学する予定の生徒が今日、登校してくるそうです」

「あぁ……、たしかエインズワース卿の推薦とか」

 国内の貴族でも有名な伯爵のに関する生徒の噂は聞いていた。術式全科で自分のクラスという予想は当たったようだ。
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