君と竜が望んだ世界
 軽く会話をしながら受け取り、教室へ向かいながら生徒資料に目を向け、新生徒の資料を上から読んでいく。

「…………!」

 一瞬時が止まった。いや、止まったんじゃない。戻った。

――頭の中に鮮明に浮かぶのは

 真っ赤な太陽のように燃える大きな炎、風に乗って空へ空へと立ち昇る黒い煙。そして大音量の爆音とともに壊れてゆく、森の中にある建物――


 俺の……、俺の大切な上司で、仲間で、戦友で。
そしてかけがえのない唯一無二の親友だった男がいた建物。


 誰よりも優しくて、誰よりも強くて。いつもみんなの前に立って、人一倍、いや、そんな言葉じゃ全然足りないくらい誰よりも前線で戦った。

 自分だけでなく、常に部下や仲間を守りながら。
そんな背中をずっと見てきた。俺も仲間も。

 まるで少年のようにしか見えない若い容姿に、決して大きくはない背中。でも不思議ととても大きく力強く感じる、背中。俺の自慢の相棒だったハーヴェイ。


ハーヴェイ・クレネル……。

そして新入生の名前。
術式全科 一年 
ハーヴェイ・ゼルギウス。

 そのたった一部だが懐かしい響きに、哀しくも眩暈のようなものを感じていた。

 傍では資料を持ってきてくれた女教師が色々と話かけてくるが、耳に何重にも蓋がされているかのように、何も、足音さえも入っては来なかった。

 全く会話なんてする気分になれないロイは、適当に相槌を打ったあと、急ぐから、と別れて教室へ足を速めた。

 だがその目はいまだ資料から離れず、頭には“あの時”の光景が浮かんでいた。

 ハーヴェイっ! ハーヴェイ・クレネル大尉っ……!?
 いやっアイツとは名字が違うし、歳だって……!

 そんなことよりアイツはあの時、もう……。
 そうだよな。いくら珍しい名前だからって、同一人物、なわけないよな。

 過去の親友と新入生のことを考えているといつの間にか教室についていた。

 ドアの前に立ち、両手で頭をかきむしり、哀しい思い出を払しょくした。
 そして深呼吸をして、教室の扉を勢いよく開けた。
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