君と竜が望んだ世界
 「よろしく」といいながら作った外面用の笑顔、その整った中性的な顔立ちに、細められた切れ長の目。

 彼の落ち着いた態度が醸し出す不思議な雰囲気。

 言葉に言い表せられない何かがある、男女関係なく本能的にそう悟り、みんな興味を持っていた。


「一週間遅れたジジョーって何~?」


 ロイが許可した少しの質問タイムに、矢継ぎ早に声を張り上げる。


「表立って大声で言えないから“諸事情”なんです」


「ゼルギウス君の家はどちらに?」

「ローゼンフェルドの中心街に。でもここは寮ですよね。俺の部屋は確か近くに門があったな」


 いくつか質問の受け答えを終えたところでロイが、「俺だって聞きたいことはたくさんあるんだ」、と思っているだろう表情で打ち切り、授業に戻った。

「ハーヴェイ、と呼び捨てで」と最後に無邪気に微笑んで、指示された隅の窓側の空席に着いた。


 ハーヴェイがあてがわれた席に座っていると、左側の開いた窓からは涼しい風が入ってきた。

 残りわずかの授業だが、涼しい風を感じながら教科書開き、授業を進める懐かしいロイの声をきいていた。


 数年ぶりに、久しぶりに見たロイは、まだ軍人だった青年はいつの間にか落ち着きのある“大人”へ“教師”へと変わっていた。


 ぼーっとしながらロイの声を聞いていた。そう、聞いていた。
 
 あの時より成長し、質まで落ち着いた大人のロイの声を。


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