君と竜が望んだ世界
顔を下に向け、眠っているかのように、だが体はこちらを向いていた。



――われ、あり。

俺はしゅご…、………ス

ト…ミーぐ…の、……ラス

12席、じょれ………いの、

せ…に座る、座する、

    タ……ラス――



 次に声を出したのも俺、の口。

 言いたいわけではない、声に出したいわけでもない。なのに何故か勝手に口から出てくる、言葉。


 微か過ぎて聞き取るには足りない、だが静穏な声を紡いでいく、俺じゃないような、俺。


 真っ白い布をゆるく服のように着た彼女は、閉じていたまぶたを開き、耳を澄ませながら、ゆっくりと腕を上げ両手をこっちに向かって伸ばしている。

 何かの上に立って、否、浮いていて……俺を見つけて微笑んだ。


 彼女につられたのか無意識に俺の手が伸びる。だがその瞬間、足下が崩れた。


 慌ててバランスをとろうとするも、同時に体が大きく揺れて膝を付いた。


 落ち着いて俺が顔を上げて見ると──いつの間にか彼女はこちらに目を向けたまま、離れていった。

 何かに引きせ寄せられるように、後ろ向きのまま、悲哀漂う表情で口を開き、動かしながら、離れていった。


──何? 聞こえない

何が言いたい?
何て言いたい?



 勝手に足は動いていた。走っていた。追いかけていた。

 だが走れども、走れども彼女は遠ざかっていった。

 不思議な、翡翠の髪の彼女は。




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