君と竜が望んだ世界
 「……どこだよそれ」


 ロイは心当たりすらない様子で腕を組み、どこの国の名前だ、と考えに入る。


「国じゃない、種族、だ。
その俺の血の根源たる祖母。その祖母たちの一族は、自分たちを指す時『イルブス』って言うんだ。
 イルブス以外は一族を“エルフ”と呼ぶ」


 ずいぶん前にロイが淹れてくれた、とっくに冷めた茶を啜(すす)りながら、ハーヴェイはすらすらと隠し伊達なく言った。


「エルフだとぉーーー!!?」

 あまりの驚きについ、ロイが大声で叫んだ。

「おいっ、あまり知らないんだ、バラすなよ!」

「あ、当たり前だろっ! お前にエルフの血が流れてるなんて知られたらこの先平穏には過ごせないんだぞっ!」

「ん~、やっぱこの国もまだそうだよなぁ~」

 慌てながら心配するロイをよそに、ハーヴェイは落ち着きはらって深く背もたれに寄りかかり、天井に顔を向けた。


「好奇、嫉妬に恐怖の目で見られたり、欲深い輩が近寄ってくだろうし。
 良くて……日がな一日、軍人やら研究者やら民商連やらに、力を貸せだの調べさせろだの追いかけ回される。首を縦に振るまで。
 最悪、人体実験に使われたり、売られたり……。裏では生死問わず高額らしいからなー……。こんなこと知っててバラすわけないだろ、俺が」

 ロイは大変なことを聞いてしまった、と頭を抱えて悩んでいた。

「ま、別段心配することはないね。例えそうなったとしても全員に仕返しを三倍上乗せして帰っていただくだけだ」

 本人の落ち着いたさまを尻目に、ロイが「あっーー!」と椅子を倒して勢いよく立ちあがった。
 何を思い出したのか目を見開いてハーヴェイを向く。

「くー……っ! ちっくしょー! これで合点が行ったぜ、“テオドールの英雄”さ、ま!」

 皮肉めいたロイに何の反応も見せずに思いふける。

「そんなこともあったか、懐かしいな。それにしても俺とロイってさ、戦場でばっかり過ごしてたんだな」

「まあ…出会いも遊ぶのも別れも、全部爆薬に囲まれてたな」


 「再会は学校だがな」といいながら、懐かしい過去を軽く振りかえって二人で笑った。


 
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