君と竜が望んだ世界
「そうだな、懐かしいなー。確かみんなで押さえ込んで、お前の両手両足にこれでもかって位、付けれる限り付けたな~、筋力トレーニング用の重り」
「あれはやりすぎだ! 体中に付けやがって。動きにくくて仕方なかったよ。
で、武器なし、術力なし、身体能力値制限、他に条件はあるか?」
「そんなもんだろ。
あの時はそれでもお前に勝てなかった気がする。でも今は前の比じゃねぇからな!
だいたい俺たちの手合わせっつったら武器と術力なし、それが暗黙のルールだったからな」
ロイと美しくない、悪戯な思い出を語りながららリングを左手首に装着し、めくっていた袖を下ろして隠した。
「完了、これでいいだろ。制限値もお前と同じにセットした。俺が制御リングしてるのは誰も知らない。
端からはどう見てもハンデ付きで相手をして下さる、やさしーいロイ先生、だな」
訓練場の一角で向き合う二人。隅っこでひっそりと手合わせする予定が、組み手に疲れた生徒がちらほら集まり、興味津々に座って見ていた。
一目見てすぐわかるロイの左手首。体に負荷を掛け、身体能力を抑制・制御するリングというハンデ付きだが、スペシャリストの戦闘というものをいつでも何度でも見物したい、と思う者ばかりだ。
さらにハンデ付きとはいえ、ロイを相手にどう動くのか、実力はどのくらいなのか、とハーヴェイへも関心の目は向けられていた。
互いに目を合わせ、見つめ合う二人。
ハーヴェイは手に持っている硬貨を親指で弾いた。
硬貨は勢いよく回転しながら球体であるかの如く、高く空中に舞う。
弾かれた硬貨は頂点へ達すると、放物線を描いて下へと落ちていった。
二人にはこの数秒がとても長く感じた。
硬貨が床に着く金属音を拾うと同時に、両者はその中心に、両者に向かって走り出す。
数メートルあった二人の距離は一瞬で縮まる。
先制をしかけたのはロイ。上半身と頭部に向かって、普通の生徒相手とは考えられないような速さで、気迫で、攻める。