君と竜が望んだ世界
 不意を付かれたわけではない。余所見(よそみ)していたわけでもない。

 いきなりハーヴェイのスピードが上がったのだ。そしてその時に出来てしまった隙をカバーするには……


 間に合わなかった。
──読まれたタイミング。ステップの着地と同時に迫りくる真横からの蹴りに素早く体を向け、両腕を正面に構え──
 ロイはハーヴェイの蹴りを受けとめきれず、数メートル先の壁に激突した。

「かはっ! ぐ……っ」

 ロイの苦しそうな、腹の底から痛みをこらえる短い声が微かに聞こえる。

 壁を崩したその衝撃音とともに、戦闘訓練を終えて休憩していた生徒も注目し、集まってくる。


 壁からは、崩れた石壁の破片がカラカラと落ちてきた。


 周囲からの好奇と驚きと心配の絡まった視線を無視し、壁にくっついて座り込んだままのロイの元へ小走りで近づく。



「くそっ。手加減なんぞしやがって」


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