君と竜が望んだ世界
~後日談~

【ハーヴェイ・ゼルギウスの不機嫌な日々】


──今日ののち、ロイの怪我がある程度治るまで約半月、学園中を噂が飛び交った。

 その噂が消えるまでハーヴェイは、膨れっ面、不機嫌、無視、さらには近づくな話しかけるな見るなオーラ全開。

 そんなダークな消極的協力者に苦笑いしながら心中で幾度も頭(こうべ)を垂れる、ロイであった。




──半月後、色んな含みを乗せて噂は泳いで行った。



「中等部生みたいな新入生との模擬戦闘で、わざわざ初等部か中等部レベルにまで身体能力を抑制・制御してあげたロイ先生が、あろう事か蹴り飛ばされたそうだ!」

「学園最強の戦士で術士で守護者で軍神たるロイ・アシュレイ様を足蹴にしたのは誰よ?!」

「ハンデをもらったくせにロイ・アシュレイを蹴り飛ばしやがったのは、実は高等部に紛れ込んだ中等部生だった!」



 だがそんなハーヴェイを不機嫌にさせた噂の数々は、ロイの回復と共に、早々に消え去った。

 本人の脳にしっかりと足跡を残して。





 ベッド上から窓辺にもたれ掛かって闇夜に囁く。

「ちっくしょう、俺ばかり悪役に仕立てやがって。腹が立つ。
 ロイの為じゃなかったらとっくに袋叩きにしてやるのに。
 ロイばっか慰められやがって。ロイばっかいい思いしやがって。
 あー、久しぶりに本邸に帰りてぇ。癒されてー……」


 そのまま月明かりに照らされて瞼を閉じる。そして噂は消え去った。夜ごと闇に放っていたハーヴェイの呟きと共に。
ようやく。


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