王国ファンタジア【宝玉の民】‐ドラゴン討伐編‐
戦前の一時
あれから、明日に備えての準備をする為にそれぞれ部屋に戻ったのだが…。
盗賊として何時でも動ける様に荷物を纏める癖の付いているドルメックは、然してする事が無く暇を持て余していた。
まだ早朝ということもあり、城下町はひっそりと佇んでいた。
誰も居ない街の中を、宛もなく歩く。
瓦礫の散乱し廃墟と化した一画に差し掛かった所で、ドルメックは足を止めた。
荒廃しきった景色には不似合いな、綺麗な旋律が響いてきたからだ。
(…こんな朝っぱらから、歌声?)
余りにも不自然なそれに興味を示したドルメックは、その歌声のする方に行ってみる事にした。
向かった先で目にしたのは、埃まみれで立ち回る二人の男女。
男は黒髪に赤い瞳、浅黒い肌の厳つい威丈夫。
身の丈大の、鞘に収まったままの剣を振り回している。
相対するのは、銀糸の様な長い髪を靡かせる、美しい少女。
張りのあるソプラノの旋律を紡いでいたのは、この少女のようだ。
迫り来る剣撃を避けながら、歌声を乱すこと無く立ち回っている。
その姿を見て、ドルメックは納得した。
その二人は、ドラゴン討伐に召集された戦士。
唄詠みの民の少女と、その護衛の傭兵だった。
(確か、イースと…ガイオス、だったか…?)
こちらに気付く気配は全くない。
余程集中しているのだろう。
その激しい特訓の様子を、ドルメックは暫く眺めていた。