王国ファンタジア【宝玉の民】‐ドラゴン討伐編‐
――ポチャッ…、チャプン―
ドルメックは自室に戻り、昼日中から湯槽に浸かる贅沢を味わっていた。
現実離れした豪華な部屋も、こういう時だけは有り難く思う。
普段は湯を沸かさずほとんど水浴びと変わらない入浴をしているドルメックにとって、温かい湯を張り浸かる行為はまさに至福だ。
朝の特訓で汗をかき冷えた身体は、思いの外強張っていた。
一糸纏わぬその身を心地良い湯槽に預け、右目に触れる。
普段は前髪で隠しているそこは、今は濡れた髪を後ろに撫で付けて露になっている。
(……いよいよ…か…)
ドラゴン討伐の時が迫っている。
ドルメックは、水面に歪む自身の身体を見下ろした。
身体中至る所にある、無数の傷跡。
生きること、仲間を取り戻すことに必死過ぎて、全く省みることをしなかった証である。
ドルメックは、自身の目的の為なら手段は選ばなかった。
盗みもした。
殺しもした。
必要があれば自身の身体すら売ったこともある。
どれもこれも、忌まわしい記憶でしかないが…。
そんなことを考えて、あることに思い至る。
(…ドラゴンは、何の為に戦っている?
なぜ、王都を執拗に狙うんだ…?)
ドラゴンは元来、知能の高い生き物である。
何の理由も無しに、王都を襲撃するだろうか…。
(もしかしたら、まだ知らされていない秘密があるのかもしれないな…)
苦い思い出と共に、絡み付く不安がドルメックの心を満たしていった。