crystal love



タクシーに乗り込み
行き先の病院を告げ
ひたすら、無事を祈る。


「お客さん、大丈夫?
真っ青よ。」

女性ドライバーが
心配そうに言って
自分用に買っていたコーヒーを
勧めてくれた。

「まだ、飲んでないから。
これ飲んで落ち着きなさい。
どんなときも落ち着かなくちゃ。」


そういって。


手のひらに、コーヒーの
温もりがじんわり伝わり
手の甲で、涙が弾けた。

タクシーのラジオから
ジェスの事故の報道が流れる。

この国では、いまだに彼は
有名人だということを
改めて感じた。

うまく話せず、ただ涙を溢す私を
疎ましく見ることもせず
ドライバーが励ましてくれる。

「大丈夫よ。

こんなときに
私の車に乗れたんだから
付いてるわよ。あなた。

しっかりしなきゃ。

物事はいいように考えなきゃ
運は向かないわ。」


たいした距離でないはずの
病院が、恐ろしく遠く感じた。


病院に到着し、
チップを兼ねて多目の紙幣を
ドライバーに握らせ、
車から駆け出した。

「ちょっちょっと、あなた!!
多すぎるわよ!!」

人の良い女性な様で
相場より高いチップに慌てて
私を呼び止める。


「いいのっ!!
コーヒーもごちそうになったし
励ましてもらったから!!
ありがとう!!」


彼女のお陰で、なんとか
自分を取り戻せた。



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