crystal love
フカフカの絨毯が敷き詰められた
エントランスを歩きながら、
腕時計を外した。
キズはついてない様だ。
ちょっと安心して、
ハンカチで革を拭い
ジェイドのジャケットの
ポケットに返した。
「ありがとう。ジェイド。
・・・でも・・・もう
いいわ・・・。」
溢れてきた涙を
ハンカチに含ませる。
「聞くつもりじゃ
なかったんだ・・・」
「いいの。気にしないで。
私は、前みたいに
弱くないから平気よ。」
言って、笑みをみせれば、
微妙な表情をみせて
彼は続けた。
「ずっと、キズ、
隠してたんだな。」
「そう。こんなキズ
持ってる女、みんな
気持ち悪がるでしょ。
だから。
馬鹿な事したと思う。
運良くか悪くか、障害もなく
助かったんだけど。
このせいで、腫れ物みたいに、
扱われたくなかったの。」
会場に戻れば、
きらびやかなモデルの集団が、
ジェイドを見つけ
呼びかけてくる。
彼も気付き、合図を送っていて
それすらも絵になってる。
「お前もくる?」
彼は問うけれども。
「行ってきて。
私は、大丈夫だから。」
笑み、首の振りで
行かないと告げた。
住む世界が違うとは
このことだろう。
ジェイドの後ろ姿を
見送りながら、
漠然と思った。
自分だけが場違い。
高価な衣装に、
自信に溢れたひと達。
この国に来て、
五年になろうとしているが、
自分は、成功出来ないかも
知れない。
まだ、スタートラインにも
立てていなくて、
何をやってるんだかと、
虚しさに支配される。
全くゼロではないにしろ、
極めてゼロに近い位置に
自分が居ることを自覚して。
この空間にいることは
苦痛でしかなくなっていた。