crystal love
チャイムとほぼ同時に、
地獄の扉を開けた。


「こんにちは。」

胃がキリキリする。


「よう、ディオナ。」

無表情なまま、彼は、
そういって。
その後、訪れたのは、
沈黙。


元来、人と接するのが、
苦手な私としては、
この空間は強烈に堪える。


先に前回の件を、
詫びてしまおうと考え、
ゆっくり口を開きかけた。

記憶は
さだかじゃないけど。

とりあえず・・・
お詫びの言葉を。

が、言葉を発したのは
彼の方で・・・


「ディオナ、俺のコトバ
一ヶ月で、完璧にして
くれるよなあ?」

「は?!」


・・・一ヶ月ですか?

カリキュラムの、1/10の
進捗状況で、それを言う?

いや、確かに、
彼の頭はいいと思うわよ。

でも、世界一難しいって
言われるエレナ語よ?


何考えてんの?


思わずマジマジと見つめる。


「できんだろ?」

相変わらず無表情で。


「普通は出来ない。
あなたの頭がいくらよくても、
当然、努力はするけど
普通は・・・無理よ。」


「可能な限り、今後一ヶ月間、
お前のコマは、全部押さえた。

来月、オーディションがあるから
それに間に合わせたい。」

目の前に、
ばっさり積まれた台本。

エレナ映画の様だ。

「オーディションなんて
言われても・・・
私、芝居なんて出来ないし。」

「は??

お前が、演技してどうする。

お前は、俺に、
台詞の複雑な表現を
教えてくれりゃあ
いいんだよ。」


あなるほど。
それも、そうよね。

でもさあ・・・


「台詞と日常会話で、
十分じゃない?
向こうにも、通訳さんいるわよ?」

だいたい、あんた
今、私と、結構なエレナ語
話してるわよ?

うちのカリキュラムじゃ
成し得ないレベルの、
比較的、高度ないいまわしを。





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