秘密の★オトナのお勉強③



それは―――自分の育った環境ゆえの、悩み。



小さい頃から、自分の父親が人気俳優という事は公認の事実で、あたしの周りには常に人が集まっていた。


だけどそれは、あたしではなく、全てお父さん目当て。



サインを求められるのは当たり前で、お父さんに会いたいが為にあたしに近付いたり、家にまで押しかけてきたりした子も居た。



それが、とてつもなくイヤだった。



周りにはたくさんの人が居るのに、その人達を“友達”だとは到底思えない。


自分を、あたしを、ちゃんと見て。



あたしは“貞永ちい”という一人の人間なのに、まるでその存在を無視されているような気がして、苦痛だった。


きっと周りの人は、あたしの“友達”になって、芸能人の知り合いにでもなりたかったのだろう。



そんな悩みを抱えたまま、保育園、小学校、中学校と時が過ぎ、もうすぐ高校に入学する。



そして今の状況から逃げようと思いついた手段が―――誰もあたしの事を知らない土地へ行こう、という事だった。




.
< 7 / 37 >

この作品をシェア

pagetop