愛しい君へ


「梨李、ちょっとついてこい」
そう言って結城兄ちゃんは先を歩く。
あたしはそれに着いていく。
どこに行くんだろう?
そして結城兄ちゃんは一つの病室で止まった。
212号。
コンコン
「はい・・・」
中ヵら慎耶の声がした。
あれっ、慎耶の知り合い入院中?
結城兄ちゃんが先に病室へ入る。
でも・・何故か入ろうと思えなかった。
何か・・怖いものを見る感じがして怖かった。
「梨李、おいで」
結城兄ちゃんが手招きする。
あたしは勇気を出して中へ入る。
「この仔が龍哉君。梨李の彼氏だよ」
そう言って結城兄ちゃんはあたしの手を目の前に居る人の頬へ触れさせた。
「ぇ、梨李・・記憶が・・・?」
「まあ。高熱のせいで部分的な記憶喪失らしい。その部分的なのが龍哉君のことだったんだ。きっと梨李が強く想いすぎて飛んでったんだろう」
後ろで結城兄ちゃんが説明した。

なんだろう・・・。
すごく・・懐かしい感じがする・・。
あたし・・大事なこと忘れてる・・・?
でも・・その何かが思い出せない・・・。
すごく温かくて・・でもツラくて・・悲しくて・・。
この人は・・あたしの何だったの・・・?
ただの友達ぢゃない・・・。

『梨李、こっちおいで』

ふと浮かぶ背景。
あたしは嬉しそうにその人の胸に飛び込む。
とっても心地良い。
あたしは・・大切な何かを忘れた気がした。


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