愛しい君へ


「座れよ。走ってきたんだろ?」
あたしをソファに座らせる。
「あの・・・。なんであたしの名前知ってるんですか・・・?」
恐る恐る聞いてみた。
「ん?覚えてない?」
そう言ってその人は立ち上がってキッチンへ向かった。
「すみませんが・・覚えていません・・・」
「覚えてるほうが変だけどな」
くすくすと笑った。
その人はココアを作ってくれた。あたしの分と自分の分と。
「はい。梨李は俺と一緒だったよな?」
そう言って渡されたココアは冷たかった。
あたしはかなりの猫舌だった。
ココアを一口飲む。
・・・甘い・・・。
甘いのは好きぢゃなかったけど、ココアは甘めが大好きだった。
「・・・美味しい・・・」
「梨李は俺が作るココア好きだったもんな」

あたしの頭を撫でる。
そう、結城兄ちゃんと別れたあの日と同じように。
「結城・・兄ちゃん・・・?」
「ん?」
逢ったときからずっと懐かしいと思ってた。
結城兄ちゃんと同じような感じだった。
「結城兄ちゃんなの・・・?」
半分訴え状態だった。

「そうだよ。思い出してくれたか?」
その人は笑った。
この笑顔は・・・結城兄ちゃんだ・・・。
「結城兄ちゃん・・・ッ」
「ぅゎッ!」
あたしは結城兄ちゃんに飛びついた。
「梨李?どうしたんだよ?」

結城兄ちゃんだ・・・。
本物だ・・・。
あたしは家族の中で一番結城兄ちゃんが大好きだった。
あたしのこと一番分かってくれてて。
唯兄も好きだけど。
どうしても言えないことだってあった。
でも結城兄ちゃんなら何でも言えた。

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