愛しい君へ


「結城兄ちゃん、今日どっか行くの?」
パンをかじりながら結城兄ちゃんに聞く。
「ん。行かないよ。めんどいし-」
さすが兄貴。あたしとそっくり。
1人で笑ってると兄ちゃんが不思議そうに見てきた。
「なんでもない。 唯兄は?」
何処にも居ない。
「部活だとよ。朝から頑張るよな、野球バカはさぁ」
コーヒーを飲みながら結城兄ちゃんは言った。
唯兄は野球大好き。野球なら何でも詳しい。それだけ好きらしい。
お父さんも野球が大好きだったとか。
唯兄はその血を引いたのだろう。
あたしは一体誰の血を引いたのか、さっぱり。
「梨李は誰の血かな-」
「結城兄ちゃんは?」
「俺はお袋かな。親父が生きてた頃に言われた記憶がある」
ふと立ち上がる。

「あたしもお母さん達に逢いたかったなぁ」
「そうだな・・・」
写真たてを結城兄ちゃんは手に取って眺める。
それは唯一家族で撮った家族写真だった。
家族でうつってるのはこの1枚だけだった。
「やっぱ寂しいか?」
結城兄ちゃんが振り返って聞く。
「そりゃ寂しいよ。でも友達が居るから。寂しくはないかな」
「強がってんなぁ」
見透かされてる。
「そんなことないもんッ!」
「まあ、頼りないだろうけど、頼ってこいよ。兄貴二人もいんだからな」
結城兄ちゃんの言葉は暖かい。
「唯兄は熱心だねぇ。野球バカだヵらッ」
あたしはくすっと笑った。

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