先生にキス〈5〉
「まさか、こんなところで幸歩に会えるなんて思ってもみなかったな…。ビックリした。」
「私も驚きました。宇堂さん、どうしてここに居るんですか?」
「この近くで取引先の人と会ってたんだよ。ついさっき終わって、これから会社に戻ろうかと思ってたところ。」
なるほど。
それで、駅前に居たんだ…。
「そ、そうだったんですか…。お疲れ様です…。」
私が軽く頭を下げると、宇堂さんはキョロキョロと周りを見渡した。
「あれ?今日は結婚式の準備だろ?旦那は一緒じゃないの?」
「ご、午前中は…仕事に行ってるんです。午後から合流することになっていて、もうすぐ来ると思います。」
「ふーん…。」
宇堂さんから少し素っ気ない声が返ってきた。
ま、まあ…
私たちの予定を話しても仕方ないよね…。
宇堂さんからすれば、どうでもいいことだろうし…。
私は、近くの大きな時計を見上げた。
「あ、あの…今日はお仕事、お休み頂いてしまってすみません。会社…戻るところなんですよね?気をつけて戻って下さい…。」
お辞儀をしたものの、改札口の方に歩いて行こうとしない宇堂さん。
どうしたものかと首を傾げると、突然…私の手をギュッと握られてしまった。