きいろいアヒル
1・prologue
“その……他に、好きなひとができた……”



「――え」



いつもの低い声で、電話口の彼は言った。



何の脈絡もなく、唐突にきりだされた。



“だから、……ごめん”



「――ん」



ふたりの距離は、物理的だけでなく、気持ち的にも離れてしまっていたということを私は実感していた。



“ちーちゃんと過ごした日々、楽しかったよ”



「――ん」




私のことを“ちーちゃん”と呼ぶのは、世界中で彼だけだった。



ちーちゃん。
ちいちい。
ちーすけ。



色んな変化をつけて、彼は私のことを呼んでいた。



“……”



「……」



彼が何を考えているのかは解らない。



ただ、沈黙だけが流れていった。



私はそんな間がせつなくて、苦しくて。



“……”



「ばいばい」



私はそう言って、電話を一方的に切って。



ベッドに、投げつけた――。
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