きいろいアヒル
「違ぇよ。真面目に解いたよ。……勉強してなかったけど」



「それを手を抜いたって言うんだって」



沢原くんは、皆につっこまれている。



余裕だなぁ……。と、私はある意味、尊敬の眼差しで隣の席の彼を見ていた。



すると、“バンッ”という騒ぎをかき消すような鋭い音が、教室の中に落雷のように響いた。



辺りはしんとなった。


当限担当の、数学教師の田中先生――通称、“鬼”が武器である巨大な三角定規で黒板を叩いた音だった。


「るさいッ! 静かにしろ! 席につけ! ……ったく」



もともと眉間にあるシワをさらに深く刻んで鬼教師は吠える。



五十歳くらいのオジさん教師で、ブルドックのような顔をしている。



いつも怒鳴るか、ブツクサ文句を言っている奴だ。笑顔なんて見たこともない。常に仏頂面。



体育教師が、竹刀を持っているとかいうのは、今の時代PTAや教育委員会から問題アリとクレームがくるのだろうけれども。



数学教師が三角定規を持っているというのは文句もつけられない。



だけど、あれはどう見ても凶器よ、凶器。



私は常々思っていた。
< 3 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop