その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
「お待たせ致しましたっ」


 まだ仕事慣れしていないのだろうか、緊張が滲む声。目を遣れば丁度高校生くらいであろうと思われる女の人。寧ろ女の子と呼びたいくらいの。


「カフェラテ、一杯」

「抹茶ラテもお願いします」


 慌てて注文を付け足す私、変に気合の入った声になってしまったように感じられて恥ずかしい。彼の口元から忍び笑いが漏れたのを、私は見逃さなかった。


「か、カフェラテと抹茶ラテですね。以上でよろしいでしょうか」

「はい」


 返事を返したのは彼、身を翻した店員さん、その小さな背中を見ていたら、腹が立つほど楽しそうな声色で彼は私に言った。


「頼まないんじゃ、無かったんですか」


 まるで分かっていたと言わんばかり、その表情もまた憎々しい程愉快そうで、一方の私は馬鹿正直に機嫌を損ねる。表情なんて元から厳しいもので、特に変化があったということでもないけれど。


「自分で出すからお構いなく」


 私はこう言っているにも拘らず、その笑みは崩れないままに、仕方ないと、そんなニュアンスを含んだ口調で返された一言。


「最初から、強がらないで言えばよかったのに」


 これをあっさり強がりだと断定してしまえる彼には、どれ程根拠のない自信があるのだろう。確かにそれも含まないではないけれど。

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