その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
「…火傷ですか?」

「ほ、放っといて」


 声の出し辛さと言ったらない。話すにしたってか細い声となってしまう痛み。やってしまった、自分が情けなくて仕方ない。


「少し待っててください」


 そう残して席を立った彼、その間に抹茶ラテのお代だけ置いて逃げようかとさえ思ったけれど、流石に私も学習能力がない訳ではない。耐えるに限度はあれど、ますます面倒なことになりかねないと思えばブレーキが掛かる。

 極端な気もするけれど、彼がうっかり漏らした不満が私を二度と学校に行けないようにする、なんてことも起こりかねない。本人の意図の有無はその際関係ないだろう。


「どうぞ」

「え?」


 テーブルへ戻ってきた彼が私に差し出したのは、水の入ったグラス。気を遣ってくれたのだろうけど、それなら最初からそうして、私を強制連行したりしないという選択をしてくれればよかったのに。

 不満ごとその水を飲み込み、感謝の気持ちに力づくで修正した。実際出来ていたかは問題でない、そういうことにしておかねば。


「……ありがと」


 悔しさも腹立たしさも本日最大限なのだけど、どうにかそれを押さえつける。落ち着け、自分。ここで爆発させたらすべてが終わる。


「どういたしまして」


 この笑顔に、他の女の子のように呑気に見惚れられたらどんなにいいか。人の笑顔に恐怖を感じるという体験は、人生でそう何度もあることではない。


 苦々しい。

 ……ここの、少し苦めのカフェラテのように。


 中途半端な空気。

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