その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 下らない会話、と言っても殆ど一方的に彼が話していたのだけど、それでに十分少々経った頃。そろそろ出ますか?なんて言う彼の顔に、殺意に似た何かが心の中で沸き立つ。

 早く解放されたかったのは、私の方だ。肩の力が入りっぱなしで疲れた。


「…これ、抹茶ラテ代置いて行くから」

「待ってくださいよ。駅まで一緒に帰りましょう」


 どうやら彼は、まだ私を解放するつもりはないらしい。いい加減自由になりたいと心中で独り言ちるも、それが彼に伝わることは当然なかった。いや、伝わったら伝わったでまずいのかもしれないけれど。

 それよりも、一つ引っ掛かったことがあって。これはちゃんと確認を取っておかないと気が済まない。


「もしかして、駅も……」


 今朝、未沙がこの男がいると騒いでいたのは、地元の駅のホーム。まさか駅まで同じだなんて笑えないことがあったら、私はどうすれば。


「あぁ、それは違います。…昨日帰りに、大事なものを落としたんで探しに行ってただけで」


 その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。勿論そんな思いがしたというだけで、その動きを実際にするような真似は出来ない。

 まぁ何はともあれ安心した訳なのだが、世の中そう上手く行くものではない。


「今日も行きますんで。バイト頑張ってください」


 そろそろ泣いても、いいだろうか。


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