その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
「さっきから何!放して」

「凄く冷えてるじゃないですか」


 あぁもう、そうよ。あんたのせいで冷や冷やするわ。口をついて出そうになった言葉をギリギリ引き留めて、私は一旦口を噤む。

 確かに私は、顔は直ぐ赤くなるけれど酷い冷え性だし、まだ冬とは言い難いこの時期でも指先は凍るように冷たく感じる。

 でも、それと手を握ることは、関係ないと思うのだけど。


「だから、放してって…」


 一向に放してもらえない手に、語調が弱まる。反対にせり上がってきたもの、それは。


「……ほら、もう熱い」


 全身が緊張で熱い。今までこんな経験はなかったのだから、当然と言えば当然だ。

 やることが極端にも程がある。こんなことをしなくても、温かい飲み物を渡すとか、ソフトな手段があるだろう。


「とにかく放して!」


 荒げた声と裏腹に、溜息が零れそうな心境。それもその筈、放すどころか手に込められた力は、さらに強くなったようにさえ思える。

 だから、こういう状況には慣れていないのだと。諦めて歩き出した私、当たり前のようにその隣を歩く彼は何か話しているけれど、聞くつもりもなければ実際聞いてもいなかった。

 そんなだから、どこかで振り解くことも諦めてしまって。気づいた時には。


「あれ?先輩の家ってここなんですか?」


 もう、家の玄関の前だった。

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