その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 悪い方向で少女漫画に夢を見過ぎかもしれない。イケメンに迫られ女子にねたまれ、放課後お呼び出しなんていうパターン、あれがこの身に降りかかるかも知れない、だなんて。

 しかし、そんなことはなかった。放課後お呼び出し、なんて回りくどい形ではなく。


「心配しなくても」

「ん?」

「もう来てるよ」


 心配する必要がないというよりは、心配する間も殆ど無かった。

 少し、ほんの少し想像に頭を使っている間。気づいたら周りに群がっていた、女子集団。全員初めて見る顔で、学年すら分からない。


「あの!さ、惺君と付き合ってるって本当ですか!?」


 凄く不安げな表情で、それでも必死そうに一人の子が口を開いた。周りの人も、無言の圧力で答えを迫る。

 しかし、当の私は答えより前に、その質問の内容に驚いてしまう。


「は?」


 何だかもう、相手に失礼かも、とか日本語伝わってるのかから疑問に思われそう、とかそんなことを考えている余裕はなかった。

 いつの間に、そこまで話が膨らんでいたんだ。ここまで改変されているということは、この人達は“中心”からは多少距離があるのだろう。

 一日と経たずにこれ程広まっているのだから、明日にはどうなっていることやら。頭が痛い。


「えと、そんな事実は全く――」


 今のうちに確り否定しておかないと、大変なことになりそうだ。手遅れかもしれないけれど、出来ることはしておこう。そう思って口を開いたものの。


「いずれそうなるかも知れませんね?」

< 26 / 41 >

この作品をシェア

pagetop