その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 翌朝私は、普段通り幼馴染が待つ駅の改札へと辿り着いた。


「凛呼ー!」


 誰が格好いい悪いだとか、他人の恋愛沙汰だのに興味津々。私とは正反対のいかにもな女子高生らしさを持った彼女が、私の名前を呼んで肘から手を振った。

 信楽 凛呼(シガラキ リンコ)、それが私の名前。


「おはようっ!」

「おはよう、未沙」


 朝からやけにキラキラとした笑顔を見せる幼馴染――長岡 未沙(ナガオカ ミサ)に、私は少々不信感を覚えた。

 いいや、彼女の笑顔がキラキラしているのはいつものことなのだが、違う。何かが違うのだ。つまりはそう言うことなのだろう。


「ねぇねぇ、凛呼!」

「な、何かな、未沙ちゃん…?」


 低血圧で未だ眠気の消えない私には、彼女の明るい声は刺激が強すぎた。

 頭がくらくらする思いで続きを促せば、矢張り私には完全に無関係な“朗報”で――あれば、よかったのに。いいや、そんな大したものではない。


「昨日!星丘 惺が凛呼のバイト先のファミレスに行ったんだって!」


 芸能人だろうか、と質問をぶつけられても仕方ないように思う。しかし、彼は一応一般人。学校一の人気と断言できる存在ではあるが。


「……どこ情報、それ」

「クラブの先輩から、メールが回ってきたの!友達と食べてたら入ってきたって、しかも一人!」


 こうまで細かく聞いていると、どこからか同情心さえ湧いてくる。四六時中とまではいかずとも、見張られているような気分になりそうだ。私には耐えられない。

 因みにクラブとは彼のファンクラブのこと。……一般人と言っていいものか、私自身今、疑問に思いだした。
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