その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 そんな下らないことを思っていると、何かが額にぶつかった。


「痛っ!」


 ……何なんだ。なかなかの勢いで飛んで来たそれは、ぶつかった後失速して私の机に落ちた。視線を落とせばそこにあったのは、消しゴム。


「あ、悪い信楽っ」


 声が聞こえた教室前方に顔を向けると、そこにいたのは、緒川 輝(オガワ テル)くん。私と未沙と、三人揃って去年から同じクラス。


「これ、緒川くんの?」

「悪い悪い!」


 高二にもなって、教室で消しゴムを投げる人がいるのか。全く、精神年齢が追いついていない。


「にしても信楽も大変そうだよな」


 けらけらと笑いながらこんな言葉を吐いた彼に、私はわざとらしい溜息を吐きながら消しゴムを手渡す。


「…面白がってない?」


 私はこんなに気疲れしているというのに、酷いことこの上ない。苦々しい表情を変えることなく、不満をぶつけた。


「仕方ねーよ。星丘、男の俺から見てもかっけぇと思うし」

「……何それなんだかやだ」


 思いっきり引いた未沙の表情。いや、未沙のその発想もなかなか酷いものだと思うのだけれど、突っ込む余力はない。


「アホか!そんな発想できるお前のほうが俺は嫌だっつの」

「あぁはいはいそうですね」


 疲弊した私の隣で言い合いを続ける二人。互いに一歩も引かず、一向に終わらないのを見かねて、仕方なく私が終止符を打った。

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