その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 ……見つけた。心当たりが、存在してしまった。


「え、ちょっと待ってあれって…まさか」

「相当鈍いんだね先輩」


 いかにも可笑しそうに、笑い声を零す。そしてとうとう、止めの一言。


「好きだよ」


 未経験者大歓迎なんて書かれた求人じゃあるまいし。人生初の経験に、一瞬で思考がショートした。

 否、脳の機能が完全停止したと疑ってしまうくらいだ。


「え゙」


 またも気を失ってしまっただなんて、恥ずかしくて他の人には口が裂けても言えない。

 何とも忙しない一日の中で、私の体は必死に休息を取っている。

 誰でもいいから、私を叱ってやってほしい。日曜日にたっぷり休んだ後だ、週末のように疲れた体に鞭打って動いている訳ではない。

 今日一日で一週間分疲れたのだと、言ってしまえばそれまでなのだが。元凶など明確である。


 ……夢を見た。短絡的過ぎて、内容なんて全く把握できていないけど。

 とにかく、もう私は疲れましたと言う夢…ではなかった。傍に犬なんていなかった断じて、そんな夢ではない。

 疲れてなんかない。きっとまだまだ大丈夫。百歩譲って疲れていたとしても、この途切れた時間の間に、きっちり回復したはずだから。

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